機能していないBtoBマーケティング組織の特徴
よくご相談をいただく内容に、次のようなものがあります。海外法人で営業の責任者として新たに赴任された方から、「自社にマーケティングチームがあるが、その実態がよくわからないため、一度担当者と話をしてほしい」というお話です。
このようなご相談の背景には、次のような事情があると考えられます。新任の営業責任者は日本にいた際、営業部門とマーケティング部門が分業され、横並びの組織として認識されていたため、直接的な関与が少なかったのに対し、海外法人では営業部門だけでなくマーケティング部門もマネジメント対象となります。しかし、全く異なる分野であるため、「何をどうすればよいかわからない」という戸惑いが生じているのではないでしょうか。
そこで今回は、私がこれまでにこうしたご相談を受けてきた経験を踏まえ、機能していないBtoBマーケティング組織に見られる特徴について考察してみたいと思います。この問題は決して海外法人特有のものではなく、日本国内でも同様の状況が見受けられますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
目標が設定されてない、または活動目標だけになっている
ご相談をいただく企業様のほぼ100%といっても過言ではないほど、マーケティングチームの目標が明確に設定されていないケースが多々あります。仮に目標が設定されている場合でも、「○○展示会への出展」や「記事を〇本執筆」といった活動そのものが目標になっており、いわゆる「頑張ることが目標」となってしまうことが多いのです。
この背景には、組織におけるマーケティングチームの役割が、利益貢献という観点から言語化されていないことが挙げられます。例えば、新規見込み顧客の獲得、新商品開発企画の立案、サプライヤー候補の開拓といった具体的な役割が明確化されていないため、「現在行っている業務をとにかく頑張る」ことが目標化されてしまい、その業務が持つ意義や必要性が見失われてしまうのです。
しかし、逆に言えば、チームの役割が明確に言語化されていれば、それを基に具体的な目標を設定することが可能です。例えば、営業部門であれば「受注を取ること」、サポート部門であれば「クレームを発生させない」「トラブルを解決すること」といった具合に、これらは全員が暗黙のうちに共有する基本的な認識として目標を立てやすいものです。しかし、マーケティングにおいては、その解釈に個人差が大きく、役割が曖昧なままでは目標設定が難しくなります。
したがって、マーケティングチームを機能させるためには、まず組織としてその役割を言語化することが最も重要な第一歩と言えるでしょう。
いろいろ施策をやりすぎて何から評価していいかわからない
複数の事業を展開する企業でよく見られるのが、ウェブサイト、動画、公式アカウント、X(旧Twitter)など、外部に公開している各種媒体(施策)を、とりあえず運用し、それぞれの媒体が各事業ごとに独立して管理されているケースです。
事業部制は、本来「各事業部を仮想的に独立した会社と見立てて運営する」経営方式であるため、各事業部がマーケティング活動を独立して行うこと自体は問題ではありません。ただし、各施策の実施背景が「他の事業部もやり始めたから」といった右へ倣え的な理由に基づいていることが多い点に問題があります。
このような場合、施策を行う目的が最初から不明確であったり曖昧であったりするため、効果が分からないまま、費用や工数だけが膨らむ結果となりがちです。
さらに厄介なのは、他の事業部が事業部長会議などで成功事例を報告すると、「続けていれば成果が出るかもしれない」といった期待感が生まれ、「今やめるのはもったいない」という心理や、「施策を止めると担当者の仕事が無くなってしまう」といった理由から、一度始めた施策をなかなか止められなくなることです。
このような状況で、理由が前者(目的が曖昧)の場合には、弊社のような第三者の支援を活用し、事業と各施策の相性や課題を客観的に評価し、意思決定を行うことが有効です。一方、理由が後者(心理的・組織的な要因)の場合は、非常に難しい問題であるため、時間をかけて段階的に施策を縮小し、ソフトランディングを目指す方法を検討するしかないでしょう。
営業部隊の方が立場が上でルーチンワークしかやっていない
ここ数年でBtoBマーケティングの重要性が徐々に認知され始めているものの、多くの企業ではまだ過渡期にあり、マーケティングチームが営業部よりも立場的に弱い状況が多いのが実情です。このような状況下では、何か新しい施策を実行したくても営業部が消極的であったり、反対されたりすることがしばしばあります。人間は慣性の法則が働くため、このような反対に直面すると、顧客を見つけるといった利益貢献につながる活動が難しくなり、結果的に、資料作成やサイトのメンテナンスなど、必要ではあるものの利益貢献度の評価が難しいルーチンワークに限定されがちです。
ただし、この課題は短期的な対策で改善することが可能です。例えば、マーケティングチームを営業責任者の直轄組織とする、または自らがマーケティングチームの責任者を兼任し、営業部を巻き込む体制を構築することで、効果的な改善が期待できます。また、長期的には、BtoBマーケティングの重要性が広く認識され、企業全体で力を入れることが当たり前になることで、時間が問題を解決してくれる可能性も十分にあります。
以上の点を踏まえ、「自社のマーケティングチームが機能していないかもしれない」と感じた際は、上記で挙げた3つの特徴に当てはまっていないかを確認し、該当している場合は適切な対策を検討し、改善につなげていただければ幸いです。