SFA成功事例「案件種類の整備から始まる営業組織づくり」
今回は、「おすすめの案件種類の分け方をご紹介」にてご紹介した、4つに分けた案件種類の活用事例をご紹介します。
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新規案件獲得が最重要課題に
今回ご紹介する事例は、食品の原材料を販売している会社様です。その会社は1年前に自社都合ではなく区画整備の一環による外部理由で工場を移転しました。新しい工場は以前の工場より大きく設備も一部入れ替えて生産力が向上したことから、会社としては工場の稼働率を上げて収益拡大をすることが最重要課題であり、必然的に営業部は、新規案件開拓が最重要課題となりました。
今までの営業は、既存顧客に対して、担当を割り当て「いろいろ対応しながら」、未取引顧客に対しては、年に1回の展示会に出展して、獲得をするということが主なやり方でした。この状態で”新規案件開拓”が最重要課題となったため営業部長としては、何からどう手をつけていいかがわかりませんでした。
営業パーソンの皆さんは既に”新規案件開拓”で忙しかった
そんな中で、営業部長が最初に行ったことは、実際の各営業メンバーに自分の担当案件を洗い出してもらいながら、メンバーに現状を知るためのヒアリングをすることでした。そこでわかったことは、メンバーによって案件粒度が下記のようにバラバラでした。
- 顧客粒度
- 発注粒度(例 ○○弁当)
- 生産ライン(例 コロッケ、ハンバーグなどの弁当の中の料理)
また、今回の主題となる新規と既存の定義が
- 増産を新規と考えたり、既存と考えたり
- 未取引顧客からの案件のみを新規と考えたり
などなど、それぞれメンバーの解釈でリストアップされていました。
そして、全員が全員「”新規案件”対応で既に忙しいのにこれからどうやって、さらに増やさないといけないのか?」という困惑からくる不安の意見でした。
SFAの導入
上記の状態がしばらく続き、営業部長も八方ふさがりになり、SFA(営業管理システム)を入れれば解決できるかもしれないということで我々にご相談をいただきました。
今でこそ、当時の状況を要約して記載できますが、現状は、これ以外にもいろいろな情報が錯綜し、真の課題がわからず、我々も「こりゃまいったなー」という気持ちでした。
そこで営業部長と我々で決断したことは、商談報告や顧客マスタ整備など通常システム導入に必要な準備事項を省いて、データ整合性入力チェックなどの機能を使うためだけにSFAを導入してもらい、真の課題設定を目的として、案件整備のみに注力することでした。
システムの使い方の前に対話
毎回我々がSFA導入をお手伝いする際は、とにかく案件粒度の定義づけに多くの時間をかけます。というのは、正直言うと我々は、お客様の商材で大体、一番うまくいく案件粒度というのを想像できるのですが、お客様自体はシステムを使って営業管理をしていくことに慣れていないため、一方的に「案件粒度は○○です。それでは使い方をご説明します。」と押しつけて、お客様が腑に落ちないまま、運用を開始してもうまくいかないことが経験上知っているからです。
そこで、営業部長だけでなく、メンバーの方も巻き込んで、数回ディスカッションの場を設けました。ヒアリングしていくと例えば、○○弁当で話が進んでもコロッケは受注できてもハンバーグは失注するなどということが当たり前のように発生することから「生産ライン粒度」で統一することで意見がまとまりました。正確には代理商を通す場合もあり、代理商は同じ物を複数のエンドに出荷する場合もあるので「エンドユーザ-生産ライン粒度」単位で統一しました。
次は、案件種類です。粒度が明確になるとそこからは比較的順調に進み案件種類は
- 未取引顧客(新規案件)
- 既存顧客-新商品(新規案件)
- 既存顧客-既存商品(既存案件)
とシンプルに定義し、改めて各自に案件状況をまとめていただきました。
想像より新規案件が少ない・・・でもなんで?
案件を改めて整備をしていただいた結果、本事例ではわかりやすく件数ベースで記載させていただきますが、
新規 | 未取引顧客 | 5% |
新規 | 既存顧客-新商品 | 15% |
既存 | 既存顧客-既存商品 | 80% |
と、「新規案件は忙しくこれ以上できない」と各自の感覚では思っていましたが、実際の数字上では想像以上に少ないという現実がわかりました。かといって皆さんはサボっているわけではなく、日々しっかり業務をされています。そこで次の仮説は、「案件種類の分け方がまだ不完全?」という当たりをつけて、さらなる議論を進めました。そこで出た意見が、既存顧客-既存商品の中で
- 生産量の増産にともなう案件対応
- 複数社購買状況から1社購買への独占切り替え
- 単価向上のため材料販売から一次加工品に切り替えるアップセル
もあるということがわかりました。改めてそれらを加味して整理いただいたところ、
新規 | 未取引顧客 | 5% | |
新規 | 既存顧客-新商品 | 15% | |
追加 | 既存顧客-増産 | 5% | 上記1、2を併合 |
追加 | 既存顧客-アップセル | 0% | 上記3だが稀に出るような案件 |
既存 | 既存顧客-既存商品 | 75% |
これでもあまり数値と感覚が一致しないことがわかりました。案件種類がより明確化されたことはよかったのですが、完全に当てが外れました。
開発も巻き込んだ議論!?
「忙しい」問題で事実と感覚が一致しない場合、大きな進め方として、次に考えるのは内部プロセスです。つまり、社内の業務の何か非効率であることが原因で、後続の業務が足をひっぱられ、その埋め合わせに必要以上の労力を使っているということです。そこで我々は、営業部だけでなく営業段階で試作品を作る開発の方々も巻き込んで議論することになりました。
そこでわかったのは、その会社の強みは、「オーダーメードでのお客様と共に製品開発をすること」であるということもあり、営業メンバーが1回目の試作品段階からお客様の要望通りに開発にオーダーメード相当の試作品をお願いしていることがわかりました。かつ営業メンバーが個別に開発メンバーに依頼していたため、依頼状況も把握できておらず、すべての営業メンバーが手間をかけていろいろ準備して依頼して、かつ待たされるという状態であることがわかりました。
まずは内部プロセス整備
我々は、「新規案件開拓」は一旦、優先度を下げて、まずは試作品依頼業務における内部プロセス改善を最優先に引き上げ、それをSFA上で実現することにしました。具体的には
- 依頼プロセスの整備 営業担当 -> 営業部長によるオーダーメード判断 -> 開発部長による開発担当アサインと納期設定 -> 開発
- 過去の試作品レシピを整備し、営業が一回目に依頼する際は、基本的には過去試作品から依頼する
- 一定量の生産量が見込める場合は、必ず開発メンバーも同行して直接顧客の意見を聞く
という運用整備です。これらの運用を2,3か月実行したことで、プロセスが改善し「新規で忙しい」という感覚は、内部業務プロセスであることが分かり解決し、再度、新規案件開拓の検討をすることになりました。
測定可能な目標がなければ、策が立てられない
ここで一般的な話になりますが目標というのは、目標の定義の明確化と、その達成の定義が明確になって初めて具体的な策(戦術)を検討することができます。今回の事例であれば、「新規案件開拓」という目標に対し、案件種類を整備することで目標の定義は明確化しました。しかしながら、例えば、前年20%増の粗利○○万円、積み上げで月間生産量○○トンなど、どこまでいけば達成なのかが決められていませんでした。目標値が決まってはじめて、次の一手を打つことができるのです。
どの案件種類で新規を獲得するか?
本事例の具体的な目標値に関しては、伏せますが、その目標値と時期(その時は既に会計年度の6か月が過ぎている)を意識しながら次に行ったのは、「どの案件種類を攻めることで目標を達成しやすいか?」という議論を続けました。
◆未取引顧客
接触すること、そして関係づくりをするという二つの壁を乗り越える必要があり、長期的な取り込みが必要である。
◆既存顧客-新製品
目標と照らし合わせて、取引量を平均10%増やせれば、目標を達成できそう。
◆既存顧客-増産、アップセル
顧客の製品がヒットする、販路拡大など自社でコントロールできる案件ではない
ということで、「既存顧客-新製品」を獲得することで達成を目指す意思決定をしました。補足として、未取引顧客に関しては長期的に必ず必要となってくるので、これはこれでデジタルマーケティングに挑戦することになりましたが、本テーマはSFAですので割愛します。
どうやって、「既存顧客-新製品」案件を作るか?
この段階になってくると、どんどん具体的になってくるので営業メンバーの方も積極的に意見を出してくれるようになります。次に行ったのが現在動いている「既存顧客-新製品」は何をきっかけに発生したのか「案件きっかけ」を整理しました。そして明らかになったのは営業部長や、一部のベテラン営業パーソンを除くほとんど全て営業メンバーは、顧客からの依頼による案件でした。つまり営業部長は、経験を元に売れ筋や横展開できそうな製品を意識し、興味を持ってくれそうな顧客に定期的に紹介をするという活動をしていたのですが、他のメンバーはあくまでも顧客から「○○を作りたいのだけど・・・」という連絡を待っている受け身の活動のみをしていたのです。この事実が明確になったことで、組織的に、流行しそうな商品、実績のある製品をまずリストアップし、紹介するための資料または試作品準備のためのフローを整備し、受身一辺倒から提案型の営業の第一歩を踏み出すことになりました。
しかし残念ながら、「SFAのおかげで新規案件開拓を見事にできる営業組織になりました」というハッピーエンドにはなりませんでした。というのは、前述のように既に半年過ぎている状況の中で、新たな体制づくりをしながら新規案件を獲得することは時間的に間に合わなかったからです。ただし、組織として次にやるべきことが明確になったことで、仕事に対する取り込み方がガラッと変わったとのことです。
まとめ
長文になってしまいましたが、「案件種類の整備から始まる営業組織づくり」の事例は、いかがでしたか?この事例のポイントは、過去の記事も含め一貫して記載しているように、複数人で営業管理をするためには、「定義を明確化」「状況の見える化」が不可欠です。それが出来て初めて関係者全員が「事実を元にした議論」ができるようになり、次々と課題解決(当然外すこともあります)に挑戦する風土が出来るのです。
そしてSFAは所詮「状況の見える化」をするための道具にすぎないということです。あくまでも、人や組織を中心に考えることが重要だと考えております。今後の記事では、この会社の最新状況や、別の事例も機会を見てご紹介させていただければと思います。