SFAでAIを導入する前に知っておくべきこと
今や「AI(人工知能)」は、業種や業界を問わずビジネスの最重要トピックとなっています。
過去にも多くのITバズワードが登場しましたが、AIはそれらとは異なり、社会の構造そのものを変化させる大きな潮流になりつつあります。
SFA(営業支援システム)やローコード/ノーコードツールの分野でも、AI機能の搭載が急速に進み、各ベンダーが「AI活用」をテーマにしたセミナーや販促を行っています。
当然、弊社にもお客様から「SFAにAIを活用できないか?」というご相談をいただく機会が増えています。
しかし弊社では、SFAを“導入すること”を目的とせず、「業績向上のための組織づくりを支援する」という立場をとっています。
したがってAI機能の紹介にとどまらず、AIをSFAで活用するために必ず押さえておくべき前提を理解いただいたうえで、導入を検討していただくようにしています。
なお本記事では、下記の前提で話を進めさせていただきます。
- 「SFA」にはローコード/ノーコードツールを含む
- 「AI」は、主に生成AIを指す
Contents
AIは“情報品質”に関係なくもっともらしい回答をする
SFAでよく紹介されるAI活用例には、次のようなものがあります。
- ターゲット顧客のスコアリング・リスト化
- 報告書の自動要約(例:チーム全体の活動サマリ)
- 定量分析レポートの自動生成(考察付き)
これらの機能は2025年以降、多くのSFAで実装が進んでおり、デモを見ると「これは便利そうだ」と期待したくなるものばかりです。
しかし、実際に自社データで試すと「文面としては正しいが、内容は全く使えない」という結果になるケースが少なくありません。
その原因はシンプルです。
AIの出力が悪いのではなく、入力データ(INPUT)の品質と量が不足しているのです。
AIは入力情報の“正しさ”を判断できない
AIは与えられた情報を「正しいもの」として扱い、最も整合性の高い回答を生成します。
つまり、データが間違っていても、その誤りを見抜くことはできません。
たとえば、SFA上の案件が「半年間更新されていない」とします。
それが「更新漏れ」なのか「実際に動いていない案件」なのかを判断できるのは、現場の担当者だけです。
AIはその区別をつけられず、「半年間動いていない事実」として処理します。
また、商談報告などの定性データも同様です。
報告内容が事実に基づいているのか、主観や解釈が混ざっているのかをAIは判断できません。
結果として、“報告書として整っているが、実態とズレた推論”が生成されてしまいます。
さらにBtoB営業などではデータ量も限られるため、統計的な補正(大量データでのノイズ除去)も期待できません。
つまり、「量で質を補う」ことができないのです。
データ化されなければAIは“見えない”
近年では、Web会議の音声を自動で文字起こし・要約するツールが一般化しています。
技術的には今後、翻訳や同時通訳まで可能になるでしょう。
しかし、営業という行為には「言葉にできない情報」が多く存在します。
たとえば、日本の商談でよく使われる「検討いたします」という言葉。
これは本当に検討する意味の場合もあれば、断り文句の場合もあります。
日本人同士なら文脈や空気で理解できますが、AIには通じません。
AIは「検討する」と文字通りに受け取り、全く異なる分析結果を出してしまいます。
もし営業担当者が「AIが要約してくれるから」と、内容確認をせず報告を上げるようになると、
質の低い情報が大量に蓄積され、AIの精度がさらに悪化します。
情報品質を維持できる仕組みが“AI活用”の前提
結論として、AIをSFAで活用するためには、人と仕組みによる情報品質の維持が欠かせません。
情報の鮮度・正確性を保てる組織にとっては、AIは極めて強力な武器になります。
逆に、運用が形骸化している組織では、AIは全く役に立たないどころか、誤った意思決定を助長するリスクさえあります。
実際の事例:AIで商談報告を分析してみたが…
弊社のお客様の一例です。
約100名規模の営業組織で、商談報告をAIに分析させ、
「受注を狙う商談か」「新規開拓の商談か」を分類させる試みを行いました。
しかし結果は想定通り「使えない」ものでした。
原因は、報告内容が主観的・断片的で、重要な情報がそもそも記録されていなかったためです。
どんなにプロンプトを工夫しても、求める精度には届きませんでした。
まとめ:AIは“整ったSFA運用”の上でこそ真価を発揮する
AIは今後、SFA領域でも確実に活用が進むでしょう。
しかし、それは「SFA運用がしっかりできている会社」に限った話です。
データが正確で、更新が行き届き、定性情報が整理されている環境では、AIは大きな成果をもたらします。
一方で、運用が不十分な企業にとっては、AIは期待倒れの幻想になってしまいます。
最終的に、AIを使いこなせる会社とそうでない会社の差は、
“SFAをどれだけ正しく運用できているか”で決まるのです。







