SFA導入失敗あるある「作業効率化を目的にしても利益貢献につながらない」
以前の「SFA導入失敗あるある:『メール地獄の解消のはずが逆に悪化してしまった」の投稿に関しまして、多くの方から「言われてみると確かに」というコメントをいただきました。今回も、一見うまくいってそうでも実は失敗している、つまりSFAを導入したのに利益貢献につながっていないパターンについて解説します。
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作業効率化を目的にしてSFAの導入を決定するパターン
SFAを販売している企業から導入の提案を受ける際の謳い文句としては、SFAを導入すれば、
- 営業マン一人一人の業務時間が1日○○時間短縮され、より多くの営業活動に費やせます。
- 余った人を有効活用して他の業務に配置転換できます。
といったことが挙げられます。
導入を決定する企業の経営者の言葉に言い換えれば、営業メンバーの時間的リソースが増えれば、本業となる営業活動に邁進して受注が増えるという経営判断からSFA導入をするということです。今回は、導入目的を作業時間削減=効率化を目的としてSFAを導入し成功する場合と失敗する場合を考察していきたいと思います。
作業効率化が成功要因になる場合
経験上、成功しやすい代表例は、消耗品やレンタル品など、保守対応と販売活動の両方を行う営業スタイル(一般的に「ルートセールス型」と言います)です。このような営業スタイルの共通点は、
“商材自体がコモディティ化され価格も似たり寄ったりである”
ということです。このような商材を販売されている営業組織の成功要因は、つきつめれば、
“顧客との接触を増やすこと=とにかく量を稼ぐこと”
です。
そうすることで、既存顧客においては、競合へ切り替えられてしまうリスクが軽減されますし、新規開拓においては、情報提供し続けることで競合からの切り替えチャンスが生まれます。この場合は、SFAに対して顧客と接触を増やすために間接業務をギリギリまで削減する、所謂「便利さ」を追求していくと良いと考えております。
ルートセールス型の営業組織は、最新のSFAを検討すべきか?
もしルートセールス型の営業組織で、SFAを導入していても効果に繋がらないと考えられている会社がある場合は、決して簡単ではありませんが、以下のような最新のツールを検討することで劇的な効果が得られるかもしれません。
- 携帯からその場で見積もりや配送手配ができる
- ついで寄りをするため最短経路の地図が表示できる
- AIによる定期訪問スケジュール最適化ができる
- 検索機能やリコメンド機能がある電子カタログを提供できる
- 清算が外部の決裁サービスと連動できる
ちなみに、有名どころのSFAは、このような比較的新しい技術を使った機能が標準ではなく、有料オプションだったりするので、注意が必要です。
余談ですが、中国ではIT化が日本よりも進んでおり、上記のような機能がないSFAは検討の土台にすら上がれない状況になっています。
作業効率化だけが必ずしも成功要因にならない場合
本題ですが、SFA導入による作業効率化を目指しても効果が得られなかったパターンの原因を考察していきたいと思います。
まずは、単純な問いから始めます。
前提:あなたは工場向けに販売する1件あたり数百万円のセミオーダー型設備を販売している営業担当です。
問い1:見積もりにかかる時間が30分から5分になることと、商談回数が5回から4回に減ること、どちらが効率的だと言えるでしょうか?
問い2:月に1度の経費精算が60分から5分になることと、案件の受注確率が5件中1件から4件中1件に上がること、どちらが効率的だと言えるでしょうか?
そもそも効率化とは…
上記のように冷静に考えると、2つの問いとも、前者を選ぶ人は少ないのではないでしょうか。
しかし、現実では、「効率化」と一言で言っても、人々は入力の簡略化や自動化などの「作業の手間を省く」ことに焦点を置きがちです。そして、前述の提案時の謳い文句である
”SFAを導入すれば、より多くの営業活動に費やせます”
と組み合わせて、作業の効率化とSFAの成功要因は「便利さ」という考えになりがちです。「便利さ」の追求のために時間と労力を費やすことは間違いではありませんし、便利さは大切です。しかし、SFAが便利になったとしても、受注が増えるとは限りません。便利さは、受注増加の要素の一つに過ぎず、「便利さの向上」が受注増加にどれだけ寄与するかは、「売るものによって異なる」という認識を持っていただきたいと思います。
受注増につながる要因の要素分解
一段階抽象的に考えると、受注増は単純に「作業効率化」を行うことで実現できるわけではなく、次の要素を増やすことが必要です。
- 案件数を増やす
- 案件の受注までの期間を短縮する
- 案件の受注確率を上げる
これらの要素の一部として、「作業効率化」があると考えられます。したがって、前述のコモディティ商材を扱う営業には、次の特性があります。
- 受注までの期間が短い → ②をあまり考慮する必要がない
- 受注要因がシンプル(基本的には価格と対応のスピード)
したがって、以下のことが重要になります。
- 顧客接点を増やして「① 案件数を増やす」
- 対応スピードを上げて「③ 案件の受注確率を上げる」
このように、「受注増」は「作業効率化」にほぼ等しい(相関性が高い)と考えられます。このような営業組織がSFA導入で失敗する可能性の要因として、「有名だから」というだけでSFAを採用することが挙げられます。有名なSFAを採用する際に、自社の業務に適合するかどうかを十分に検討せずに導入することがあります。その結果、SFA導入後も自社の業務に適合せず、「作業効率化」を達成できない可能性があります。
案件型営業とは
オーダーメードないしはセミオーダーなど、商材自体が複雑で比較的単価の高い商材を扱っている営業がそれにあたります。このような商材は
- 受注までの期間が長い
- 受注要因が複雑
- 購買プロセスが複雑(売り手×買い手、直接的×間接的に購買にかかわる人が多い)
特性があります。このような営業スタイルを、SFAの世界では”案件型営業”といいます。
この”案件型営業”の場合、作業を効率化しただけでは、営業が目指すべき「受注増」を実現できない(0ではないが相関性が低い)ため、導入をしても思った効果が得られなかったという事象が発生してしまいます。
まとめ
SFAの世界には、大きく案件型とルートセールス型の2つがあります。ルートセールス型では作業効率化が成功の要因となりますが、案件型では決してそうではありません。多くの案件型営業を行っている会社が、「作業効率化の実現」を目的としてSFAを導入したことで、期待した効果を得られない、つまり導入に○○万円、毎年の運用に△△万円を費やしても受注増に伴う利益につながらない事例が頻発しています。
今回のテーマは失敗事例に焦点を当てていますので、ここで結論付けします。案件型営業の成功要因に関しては、別の機会で記述させていただければと思います。