案件管理を使った受注分析と失注分析の方法
営業責任者の立場からすると、組織として受注率を上げる、または失注率を下げるためには、まずはそれぞれの理由を分析し、改善活動の優先順位を決める判断材料として使いたいと考えるのは自然なことです。
そのためSFAを使っている会社の多くは、受注理由、失注理由を定量分析できるように案件管理内に受注理由と失注理由を選択肢として用意し、担当営業へ入力してもらうような運用をしています。しかしながら、弊社の経験からその選択肢で得られた情報を元に、何か改善活動につなげられたという話は残念ながら聞いたことがありません。
本記事では、案件(商談)管理内にある受注理由、失注理由選択肢が役に立たないのではないか?という見解に至った理由を解説します。そして、受注分析・失注分析をするためにどのようにSFAを活用していけば良いかを提起いたします。
Contents
案件管理で受注理由・失敗理由が役に立たない理由
人は誰でも成功したら自分の手柄、失敗したら外部原因と考える傾向がある
これは良い悪いではなく、人間なら誰しも上記のバイアスがかかってしまいます。ある会社では、受注理由、失注理由ともに「提案力」という選択肢が設けられており、見事に受注時には、9割に「提案力」が選ばれ、失注時には「提案力」が1個も選ばれてないという結果でした。これはその会社1社が特別というわけではなく、経験上、どの会社も似たり寄ったりの結果となります。
営業の方は、どの案件においても自分が良いと思う提案を必ずしているため、受注をした時は、自分の「提案力」が受注理由の一つだと考えることは自然です。そして失注の場合は、顧客から提案が悪いなんて直接言われることはほとんどないため、まさか自分の提案が悪いとはなかなか考えません(良いと思って提案してるのですから)。また仮に失注理由を考えた際に、提案力がなかったと自己反省してたとしても、それをデータとして選択してしまうと、後々上司に詰められるかもしれないというリスクを考えてしまい、失注理由に「提案力」と選択する思考にはなりにくいでしょう。
実際、受注・失注を左右する要因に「提案力」は存在し、BtoB営業にとって重要な要素となります。一方で、上記の理由に「提案力」という選択肢があれば、受注時には選ばれやすく、失注時には選ばれにくいですし、逆に選択肢がなければ、本当に「提案力」によって決まった案件も別の理由に分類されてしまうため、分析として意味をなさなくなってしまいます。
勝ち(受注)には不思議の勝ちがある
勝ちに不思議な勝ちあり
負けに不思議な負けなし
Wikipedia
これは、野球好きな弊社代表がよく口にする言葉で、野村克也元監督が使われていた言葉です。調べてみると 元々は松浦静山という方の言葉のようですね。
まさにその通りで、例えば、営業に置き換えると、購入前提で会社に問い合わせが来て、たまたま担当に割り当てられた案件であったり、競合がチョンボして消去法で選ばれたり、顧客が面倒だから競合比較をしなかったりと所謂「ごっつあん(ラッキー)受注」というのが営業をしているとそれなりの確率で生まれたりします(知名度の高い会社ほど高確率で発生します)。
基本的には「ごっつあん」という受注理由を設定している会社は見たことないのですが、もし選択肢に「ごっつあん」を用意しそれを選んでしまうと、上司にも同僚にも目についたとき「あいつ、ごっつあんばかりだな」と思われる可能性を考えると、受注理由は必ず別の理由を選ぶでしょう。上述の「提案力」の件も含めて、受注理由はそもそも、データ信頼度が保証できない性質と言えます。
本当の失注理由は、基本的には教えてくれない
上述のように営業担当は、情報としては受注理由を正確に把握しやすいのですが、データとしては正確に反映されづらいという性質があります。一方、失注理由は、「負けに不思議な負けなし」というように、顧客が自社を選ばなかった理由は明確です。ただし、問題は、顧客はそれを営業に伝えない又は、波風立てないよう当たり障りのない表現で謝絶することがほとんどです。つまり真の失注理由を営業は知る機会は少なく、営業担当の解釈になってしまうため、失注理由はそもそも情報として把握しづらい性質を持っていると言えるでしょう。
以上より、受注理由も失注理由も、データの信頼性を確保できない情報であると言えますので、選択肢として受注理由も失注理由も集計する必要はないと考えられます。そのため、実際、理由を集計してみるとほぼ100%の営業責任者が自身の直感と、集計結果がかけ離れすぎた結果になり、活用しなくなるのだと思われます。
受注分析、失注分析をするためのSFA運用方法
案件終了ステータスが”失注”のみ場合は、細分化する
失注理由ではなく案件の終了を意味するステータスが”失注“しか用意されてない場合は、下記のように細分化してみましょう。
- 失注:他社を選んだ
- 消失:顧客の検討自体無くなった
- 延期:検討が先送りになった
- 辞退:自社がその提案を降りた
これだと、一定数の人は失注を選ぶとよろしくないからと言う理由、で、嘘のステータスに変える人もいるかもしれませんが、それは、営業メンバー別でステータスの分布をみると誰が嘘をついてるかほぼ完ぺきにわかるので心配はいりません。基本的にはしっかり営業活動をしている人は、失注の割合が最も多いはずです。”消失”,”辞退”が多い場合は非常に怪しいです。そして”延期”の場合は、延期フォローリストを月一の定例会で全員で確認するなどの体制を作れば、自浄されて本当に延期になった案件のみがそのステータスになります。
提案中競合選択肢(複数)と失注時の採用競合選択肢(単数)を用意する
競合情報をテキストで記載する会社が多いですが、是非選択肢として用意してください。また、提案中には複数社で争い、最終的には1社に決まるため、提案中と、失注時の案件の状態によって項目を分けて用意することが重要です。案件ステータスのある状態になったら、想定される競合を選択式(複数)にしておく、その中には、無、不明、その他も入れる(その他の場合は自由入力も)。同様に失注時には、顧客が採用した競合を選択させるようにしましょう。
失注分析の方法
上記の運用が定着し、情報が蓄積されると、提案中競合情報からは、どの競合が自分の管轄しているセグメント(地域や業界など)において、体制的に強いのか(ブランド力、その地域における販売体制)?がわかります。また、失注案件データからは最終的にどの競合が強いのか?も把握できます。その他に出てくる新たな競合先については無視するべきなのか?意識するべき(選択肢化する)かを判断できます。
そして競合(敵)の状況を頭に入れたうえで、下記の5Pの視点を持ちながら営業メンバーから失注理由をヒアリングし、失注原因を考えるというでしょう。
Product(製品) | 仕様が要件を満たしてないのか? |
Price(価格) | 価格が高いのか?わかりづらいのか? |
Promotion(販促活動) | 顧客のターゲティングが悪いのか? 当て馬にされるケースが多いなら認知活動が弱いのか? |
Place(販売体制) | 直販、代理店、プリセールス時の体制、サポート体制などに弱みがないか? |
Personal Sales(営業) | 営業メンバーのスキル不足、標準化ができてないか? |
受注分析の方法
受注案件における会社規模、業界、用途、自社の部、担当などの客観性の高い属性を使って受注率の高い条件の仮設を立てます。その仮設を検証する目的として、営業メンバーに受注理由をヒアリングしていくとよいでしょう。その仮説とヒアリング内容が一致していたら、受注理由(自社の強み)が見えてくるので、横展開や体制強化などを検討する判断材料となりえます。
注意してほしいのは、よくこの仮説検証目的以外に営業メンバーから受注理由・失注理由などをヒアリングしがちですが、人は大抵、直近にあった体験が最も再現性が高く正確であると思ってしまうため、どうしても客観性に乏しくなってしまいます。あるあるの経験だと思いますが、「うちの製品は○○だからダメってお客さんみんな言ってますよ。」と言って、『みんなって具体的にどこ会社から聞きましたか?』と聞くと大抵は、数日前に1社に言われたことだったりします。そのためSFAにある事実情報を元に会話をすることが重要です。